おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

ルーム

湿度の高い曇り空の一日。
数日前の早朝から控えめながらも蝉の鳴き声が聞こえるようになった。
いよいよ夏本番か。

映画「ルーム」を観た。

昔々、ぼくが降りてくる前、ママは毎日泣いてテレビばかり観るゾンビだった。
天国のぼくは天窓から降りてきて、ママを中から蹴ったんだ。
絨毯に出てきたぼくのへその緒を切って、ママはね、はじめましてと言ったんだよ。
そんな想像力豊かな幼い少年の語りから物語は幕を開ける。

ここに、天窓のある狭いワンルームで暮らす母子がいる。
彼女は、ここでひとり子供を産み落としたのだろうか。
荒んだしつらえの部屋で最低限の物資に囲まれた貧しい暮らし。

鍵のかかったドアから外に出ることはないが、母は教育熱心で、規則正しい生活と室内運動を日々心がけているようだ。
ここは終末世界の核シェルターだろうか?
いやいやそうではないらしい。

彼女は17歳の時に見知らぬ男に誘拐されて以来、7年間この部屋に監禁されているのだ。
そうか!なるほど・・・って、ひぃぃぃいいい。

こうして生まれた息子は外の世界を知らない。
天窓のあるこの部屋とテレビを通して見る世界だけが彼の全てだ。
母は息子を傷つけまいとファンタジーをまじえて物事を説明するため、幼い彼は自分たちが置かれている異常な状況を理解していなかった。

その息子が、このたび5歳の誕生日を迎えた。
好奇心旺盛で聡明な子供に成長した息子を前に、母はある決意をする。
ずっと心に温めていた脱出だ。
ひとりでは無理だったが、二人で協力すればきっとなんとかなる。
それに、少なくとも息子だけは助けてやりたい。

さあ、週ごとに物資を補給にやって来る監禁男を欺いての脱出作戦。
果たして上手くいくのだろうか。

物語は、社会から隔離された監禁生活を送る母子の顛末を、5歳の少年の視点で綴ったヒューマンドラマ。

前半は、監禁男から逃れる命がけの脱出劇を。
後半は、社会に戻った母子の戸惑いと苦しみを描いてゆく。

息子がいたからこそ正気を保ち、生きて来られた。
息子は彼女にとって地獄における唯一の救いであり希望だった。

しかし環境が変わると、この息子の存在は複雑なものとなる。
無事に我が家へ戻って安堵するのもつかの間。
母子は社会の好奇の目に晒されるだけではなかった。
彼女やその両親にとって息子は、無かったことにしてしまいたい悪夢が現実であったことを再認識させられてしまう存在になるのだ。

一方、息子にとっては、見るもの触れるもの全てが初めて。
いきなり広がった世界の大きさ、そして苦しみ続ける母の姿に戸惑う。
ああ、母子の心があの部屋から解放される日は来るのだろうか。

現実とファンタジーの境界が曖昧な子供の視点を生かし、おぞましい表現を避けている点に救われる。
立ち直ろうとする母子の姿を見つめ、監禁事件のその後に迫った重く衝撃的な一作。

「ソムニア 悪夢の少年」のジェイコブ・トレンブレイ
ドン・ジョン」のブリー・ラーソン
「砂上の法廷」のショーン・ブリジャース
ボーン・レガシー」のジョーン・アレン
サンキュー・スモーキング」のウィリアム・H・メイシー
トム・マッカムス
アマンダ・ブルジェル
「ダイアナ」のキャス・アンヴァー共演。

原題「ROOM」
2015年 アイルランド、カナダ制作。