朝から暖かな日差しが降り注ぐ。
陽気に誘われたハクモクレンが一気に花開き、通りを清楚に彩っている。
映画「楊貴妃 Lady Of The Dynasty」を観た。
時は8世紀。
ここは西のローマ帝国に勝るとも劣らない国際色豊かな唐の都、長安。
皇帝が見下ろす広大な内廷では、戦争で亡くなった人々を悼む弔いの儀が催されている。
戦勝祝いとしないところに、この皇帝の慎み深さが見て取れる。
ひときわ高く設けられた舞台で、白装束の美しい舞を奉納する若い娘の姿から物語は幕を開ける。
皇帝の心を捉えたこの踊り手の名は楊玉環。
蜀の役人の娘であったが、両親を亡くし親戚の家に身を寄せているという。
この舞踊が評価され、彼女は武恵妃の意向により、その愛息子である第18皇子 寿王の妻に抜擢された。
どうでもいいけど、皇子多すぎィ!
平民から皇族の妻にとは、なんというシンデレラストーリーだろう。
しかも寿王はなかなかのイケメンだ。
しかし、彼女の幸せも長くは続かなかった。
外敵など恐るるに足りない、この巨大帝国にも弱点があったのだ。
皇子として生まれた者はその半分が殺され、残り半分は血を舐めながら生きるとまで言われる。
身内による凄惨な権力争いだ。
我が子を守りたい武恵妃の企みにより、皇太子と2人の皇子が謀反の疑いで処刑されるという事件が起こった。
愛する者たちの裏切りと相次ぐ死に、たいそう心を痛めた皇帝。
そんな義父に玉環は実の娘のように寄り添い、共に悲しみを分かち合う。
ところが、それを浮気と勘違いした寿王は憤り、妻を差し出す代わりに皇太子の座をよこせと親父に迫るのだった。
物語は、唐代に生きた世界三大美人のひとり、楊貴妃の顛末を描いた豪華絢爛な歴史スペクタクル。
権力は往々にして人を狂わせてしまう。
そんな欲望はびこる宮中に染まることなく、人を愛し、人のために尽くそうとする人間の生き様に心打たれる。
花々を散りばめた色彩美もさることながら、愛する人に裏切られ傷ついた男女が立場を超えて惹かれあってゆく姿を、差し込む光によって繊細に表現している点が見事。
ヒロインは芯のある聡明な女性として描かれ、権力をカサに着たエロじじいが嫁に手を出すといった、楊貴妃にまつわる従来のネガティブなイメージを覆す女性向けの一作。
宦官役のウー・ガンは、クリストファー・ウォーケンにどこか雰囲気が似ている。
「孫文の義士団」のファン・ビンビン、
「花の生涯 梅蘭芳」のレオン・ライ、
「胡同のひまわり」のジョアン・チェン、
ウー・ズン、ウー・ガン、ニン・チン、
スティーブ・ボーガディン、
「海洋天堂」のウェン・ジャン共演。
原題「王朝的女人 楊貴妃」
2015年 中国、韓国、日本 制作。