日差しは温かいものの、まだちょっとだけ風が冷たい晴天の一日。
近所の桜がポンポンと咲き始めた。
映画「疑わしき戦い」を観た。
時は1933年。
世界大恐慌で米国人の4分の1が職を失った。
職に就けても長時間労働や不衛生な住環境、低賃金に苦しんだという。
おや?
住環境以外は昨今とさして変わらないのではないか?
そんな前置きから物語は幕を開ける。
ひとりの青年が古びたアパートの一室を訪ねる。
ここは急進派共産主義者たちの活動拠点だ。
共産主義は、お上に盾突く危険思想とされて容赦ない弾圧を受けていた。
労働者の権利を訴える活動家だった青年の親父もまた、警官による取締りによって命を落としてしまったのだという。
彼にとって、この急進派の門を叩くということは、持って行き場のない悲しみと怒りをぶつける親父の弔い合戦でもあるのだ。
こうして彼は、ベテラン活動家に連れられさっそく大仕事に向かうことになった。
行き先は、りんご園が広がるカリフォルニア州トーガス渓谷。
この一帯を支配する3人の大農園主は、季節労働者の弱みにつけこみ不当に搾取しているのだという。
このたびの彼らのミッションは、労働者になりすまして紛れ込み、リーダーを焚き付けて団結させ、一斉ストライキで農園主に要求を飲ませること。
武器を持たぬ戦いだ。
武装した自警団を従えた農園主相手に、果たして上手くいくのかな?
ベテラン活動家は青年にいう。
大義を見失うな。
これは次世代の社会のために変化をもたらす戦いなのだ。
へー、ずいぶんとご立派なことをおっしゃるじゃないか。
大義なんてものは大概ロクデモナイものに決まっている。
そのために多くの血が流されてきたのだ。
ほれ見たことか。
彼らは、嘘も方便とばかりに労働者の怒りを誘発するよう仕向け、労働者のリーダーを矢面に、農園主側との対立を影から扇動してゆくのだった。
物語は、ジョン・スタインベックの小説をもとに、虐げられた労働者たちの戦いの行方を描く社会派ドラマ。
彼らの戦いが、後に労働者の権利を守るための法整備に繋がり、ひいては現代社会の礎を築いたといわれている。
戦いは無駄ではなかったと持ち上げる一方で、理想や信念のために人々を扇動しその人生を狂わせてしまう、活動家が抱え続けなければいけない葛藤にも触れられている。
労働者の血が流れればより民衆を味方につけられると血も涙もないことを言ってのける活動家は、搾取する農園主と一体何が違うというのだろう。
眩い光あふれるりんご園、そしてかがり火に照らされた労働者たちの姿。
この重いテーマをまるで絵画のような美しい映像で紡ぎ出す、主演と監督を務めたジェームズ・フランコの才能に驚く。
「マイ・インターン」のナット・ウルフ、
ジェームズ・フランコ、
「スティーラーズ」のヴィンセント・ドノフリオ、
「スティーブ・ジョブズ」のアーナ・オライリー、
セレーナ・ゴメス、
エド・ハリス、
「ミッドナイト・スペシャル」のサム・シェパード、
「アウトロー」のロバート・デュヴァル、
「ハンガー・ゲーム」のジョシュ・ハッチャーソン、
「凍える夜に、盲目の殺し屋トポ」のブライアン・クランストン、
「LUCY ルーシー」のアナリー・ティプトン、
「ゾンビ・ガール」のアシュリー・グリーン、
ザック・ブラフ共演。
原題「IN DUBIOUS BATTLE」
2016年 制作。