嵐の晩から一夜明け、どんより空の下まだ強風が吹き荒れている。
季節がちょいと逆戻りしてしまったようで空気が冷たい。
映画「少女ファニーと運命の旅」を観た。
子供たちは走った。
生きるために。
陽だまりの中、キャッキャとドッヂボールに興じる子供たち。
年長者の呼びかけで遊びは一時中断。
集められた子供たちに、次々と親からの手紙が手渡されてゆく。
ここは学校かな?
それとも児童養護施設?
第二次世界大戦中、フランスではユダヤ人の子供たちが強制移送から逃れるため支援組織に託された。
そんな前置きから物語は幕を開ける。
時は1943年。
ここはクルーズにある支援組織の施設。
欧州各地から逃れてきたユダヤ人の子供たちに混じって、幼い2人の妹と暮らす少女がいる。
父は強制収容所。
叔母の家に身を寄せる母から届く手紙と、家族の思い出だけが彼女の心の支えだ。
妹たちの手前、泣き言を言うことは出来ないが、不安で寂しいのは彼女も同じだった。
ほどなく施設に激震が走る。
ユダヤ人の子供たちがいると当局に密告があったのだという。
しかも、密告しやがったのは司祭だというではないか。
ああ、世も末だよ。
こうして子供たちはバスに揺られ、イタリアにほど近いムジェーヴの屋敷に匿われることになった。
ところが、ホッとするのもつかの間、イタリアのムッソリーニ首相が失脚したというではないか。
これで戦争が終わるなんて浮かれている場合じゃない。
ユダヤ人に寛容だったイタリア軍が引き揚げ、代わりにドイツ軍がなだれ込んでくるのだ。
既にパリやリヨンといった大都市はドイツ軍に占領されている。
このままでは子供たちが危ない。
隠れ家のマダムは一計を案じた。
林間学校に行くフランス人の子供たちを装い、彼らを列車に乗せスイスに逃れさせるのだ。
子供たちにフランス風の偽名を覚えさせ、使う言葉はフランス語のみと言い含める。
しかし、マダムは引率してゆくことができない。
列車では検閲があり大人は身分証が必要なのだという。
活動家であるマダムの偽造身分証では、バレた時に子供たちを巻き込んでしまう恐れがある。
そこで、この少女がリーダーとなり子供たちを引率してゆくことになった。
フランス警察やドイツ兵がそこらじゅうで目を光らせているし、言っていいことと悪いことの区別が付かない幼い子供たちはウッカリ何をしゃべり出すか分からない。
皆のために平静を装ってはいるが、本当は彼女も泣きたいくらい恐ろしい。
さあ、子供たちの命がけの旅路はいかに。
物語は、ナチスドイツ支配下のフランスを逃れスイスを目指す、ユダヤ人の子供たちの逃避行を描いたスリリングなロードムービー。
噂や状況を的確に判断し、大人顔負けの機転を利かせる。
時代に負けない少女の生きヂカラに圧倒される。
涙をためて立ちすくむ幼い子らの姿が強く印象に残った。
子供たちは我々が思っている以上に場の空気を読み、大人の話にじっと耳をそばだてている。
泣いてもどうにもならないことを経験から学び、感情にじっと耐えているのだ。
密告が横行し、子供が子供らしく生きられない社会。
これがほんの70年前の出来事だというのだから恐ろしい。
良心のもと身の危険をも顧みず、子供たちのために尽力した人々の存在があったことがささやかな救いであった。
人種や宗教による謂れ無き迫害を、ユダヤ人の子供たちと共に体験する重い一作。
レオニー・スーショー、
ファンティーヌ・アルドゥアン、
ジュリアーヌ・ルプロー、
ライアン・ブロディ、
アナイス ・マイリンゲン、
ルー・ランブレヒト、
イゴール・ファン・デッセル、
マロン・レヴァナ、
ルシアン・クーリー、
エレア・ケルナー、
アリス・ドホー、
ヴィクトール・ムートレ、
「少年と自転車」のセシル・ドゥ・フランス、
ステファン・ドゥ・グルート共演。
原題「LE VOYAGE DE FANNY」
2016年 フランス、ベルギー制作。