からりとした晴天が広がる。
花粉がようやく落ち着き大物の洗濯に追われる一日。
映画「ラグナロク オーディン神話伝説」を観た。
暗がりの中、湖に浮かぶ小島を見据え、たいまつを掲げるヴァイキングの戦士たち。
その時、ひとりの若い女が行軍に異を唱えた。
これはオーディンの意思だ。
女の言葉も意に介さず、リーダーはおとりの山羊を筏に乗せると島に向かって送り出す。
ほどなく水底から巨大な何かが出現し、彼らに襲い掛かるのだった。
そんな、なにやら恐ろしげなシーンから物語は幕を開ける。
時は巡り現代。
ここオスロの博物館にヴァイキング研究の学芸員がいる。
同じ研究者だった妻を亡くし、2人の子供と暮らすシングルファーザーだ。
さて、ヴァイキングの女王の墓とみられる、彼が発掘中のオーセベリ墳丘墓からルーン文字が刻まれた木片が見つかった。
「人が知りえることはわずかである」
これは女王からのメッセージに違いない。
さらに、女王が胸に抱いていた獣の彫像にも、一見模様のような文字が刻まれていることが分かった。
「ラグナロク」
終末の日を表すそれは、世界の終わりを意味するのだろうか。
女王は後世の我々に何を伝えようとしているのだろう。
夢とロマンにわくわくする話じゃないか。
ところが、博物館のスポンサーたちは、ヴァイキングの財宝のような世界的大発見を期待している。
女王のメッセージなんてオカルトじみた話はどーでもいいのだ。
スポンサーに去られ、亡き妻と重ねてきた研究が頓挫しかけていた頃、彼の研究仲間がノルウェー北部で古い石版を見つけてきた。
あの女王に関する石版ではないか。
それは、神の力を見つけようと行軍を重ねた、千年前のヴァイキングたちの記録だった。
「オーディンの目」と呼ばれる底なしの湖に浮かぶ島に何かがあるらしい。
これは宝の地図に違いない。
長年の研究がついに報われるかも。
こうして彼は夏休みの子供たちを連れ、仲間と共にフィヨルドの大地が広がるフィンマルクの奥地へと分け入る。
そしてついに、湖に浮かぶ「オーディンの目」がその姿を現すのだ。
この森林地帯はノルウェーとソ連の旧国境地帯で、冬戦争時代の遺物と思われるソ連の戦車や弾薬庫が遺棄されたままになっている。
喜び勇み小島に渡った彼らを、この遺棄された監視施設が待ち受けていた。
はて?ソ連兵は、こんな島に立てこもって何を監視していたのだろう。
暗い水底から見つめる存在に、彼らはまだ気づいていないのだった。
物語は、ヴァイキングの宝を求め、北欧の奥地に分け入った研究者一行を襲う恐怖を描くホラーアドベンチャー。
人の欲が世界を滅ぼすと物語はいう。
神の力を求めたヴァイキング、千年後の冬戦争時代に偶然発見したソ連兵、そして現代の研究者たち。
人知れずこの地に棲み付いていた神話時代の怪獣が、これら欲に目が眩み、禁足地立ち入った人間に容赦なく襲い掛かる。
よくある使い古されたストーリーながら、怪獣の全貌をほとんど見せず、観客の想像力でもって恐怖を煽る手法が上手い。
餌の数によって増殖する怪獣。
千年単位でじわじわと、脅威は禁足地に留まらず広がってゆくに違いない。
終末の予言の意味するところが分かったような気がする。
なぜか家族の絆を前面に押し出し、めでたしめでたしで幕を下ろしているが、不安要素の残る後味の悪い一作。
ポール・スヴェーレ・ハーゲン、
ユリアン・ラスムッセン・ポドルスキ、
マリア・アネット・タンデレード・ベルグリッド、
ニコライ・クレーヴェ・ブロック、
ソフィア・ヘリン、
「ヘンゼル&グレーテル」のビョルン・スンクェスト、
ベラ・ルディ、
ジェンス・フルン共演。
原題「RAGNAROK」
2013年 ノルウェー制作。