朝からどんより曇り空の一日。
気温が上がらず、バジル、フウセンカズラ共に生育がイマイチだ。
このままではおそらく蒔き直しになるかも。
映画「孤独のススメ」を観た。
緑の草原広がる田舎の一本道をバスが行く。
演奏は難しくない。
正しい鍵盤を、正しい時に叩けばよい。
・・・まあ、そりゃそうだわな。
そんなJ.S.バッハの引用文から物語は幕を開ける。
バスを降り、俯き加減で家路を急ぐ中年男がいる。
こわばった表情のまま、彼は誰とも目線を合わせることなく家に入っていった。
気難しい性格なんやろかね。
妻と息子がいたようだが、今はひとりで暮らしているようだ。
おや?
ふと窓の外を見た彼は、向かいの家からガソリン缶をもらい受けているひげもじゃ男の姿を捉えた。
先日、ガス欠でガソリンを分けてやった男じゃねえか。
あいつめ、とんだ詐欺野郎だ。
彼は表に出るなり、ひげもじゃ男を捕まえ責め立てた。
そして罰として庭の草むしりをさせる。
この何もしゃべらぬ無口なひげもじゃ男。
仕事が終わった後も去ろうとしない。
どうやら行くあてがないようだ。
ホームレスだろうか。
言葉が通じているかどうかすら怪しく、食事のマナーも知らず信心も無いようだ。
知的障害がある、いわゆる気の毒な人なのかもしれない。
敬虔なクリスチャンである彼は、困った人には手を差し伸べよという神の教えに従い、ひげもじゃを放り出すことはせず、しばらく家に置き面倒を見てやることにした。
さて、このひげもじゃ、まともな会話すらできぬが、見たもの聞いたものを模倣する習性があり家畜の鳴きまねがやたら上手い。
ショッピングセンターで買出し中にその様子をたまたま見かけた金持ちが、アーチストと勘違いしたのか、ぜひ我が子の誕生会の余興をお願いしたいという。
ギャラも悪くない。
思いがけず彼は、ひげもじゃと道化師コンビを組みパーティーの余興を勤めることになった。
それは、日曜日は決まって教会に通い、酒は飲まず、何十年もひたすら規則正しい生活を心がけてきたクリスチャンの鑑たる彼にとって大きな変化だった。
物語は、辛い過去から目をそらし、信仰と孤独のもとに生きてきた頑なな中年男の目覚めを描くヒューマンドラマ。
社会や信仰といったものに縛られない世界に生きるひげもじゃに救いを見出した彼は、かつて妻にプロポーズをしたマッターホルンを目指そうと思い立つ。
そこは妻が待つ天国に一番近い場所でもあり、妻が望んだありのままに生きるという価値観そのものでもある。
ひげもじゃは、新たな価値観へと彼を導くべく神が与えた道化師だったに違いない。
冒頭のJ.S.バッハの引用文が転じ、
人生は難しくない。
しかるべき時に、しかるべき行いをすればいい、と物語を締めくくる。
室内を飛び回る蝿が序盤からやたら気になった。
あれは出口の見えない状況にあった彼自身の姿をなぞらえたのかもしれない。
階段を駆け上がるように高揚感と喜びに満ちたフィナーレに持ってゆく手法が素晴らしい。
風景に差し込まれたタイトル文字といった開幕から作り手のセンスが光る一作。
さて、最後にひとつ謎が残る。
邦題の「孤独のススメ」とは一体何だろうか。
付けた人物に問うてみたい。
トン・カス、
ルネ・ファント・ホフ、
ポーギー・フランセン、
ヘルマート・ヴァウデンベルフ、
アリーアネ・シュルター、
エリーセ・シャープ、
アレックス・クラーセン共演。
原題「MATTERHORN」
2013年 オランダ制作。