おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

神なるオオカミ

爽やかな風吹く洗濯日和の一日。

映画「神なるオオカミ」を観た。

ずらりと並んだバス。
その間を縫うように、胸に紅い造花を付けた若者たちが行き交う。
そんな北京を出発する若者たちでごったがえす映像から物語は幕を開ける。

時は1969年。
文化大革命が始まって2年目。
政府の意向で都会の学生たちは農業や牧畜を学ぶため農村に下放された。

ここに、新天地に心躍らせる青年がいる。
彼は友人と二人、内モンゴル行きを志願。
バスに揺られ、途中からは馬車に乗り換えて大陸を北へ向かう。

万里の長城のその先の広大な草原。
かつてチンギス・ハーンが支配していた大地だ。

やがてオオカミの皮がたなびく長老のゲルに到着した。
二年間ここでモンゴル人と生活を共にし、子供たちに読み書きを教えながら牧羊を学ぶのだという。

モンゴル人たちは、タンゴル=天 の意思に倣い、その化身たるオオカミと共存してきた。

草原を荒らす草食動物をオオカミが狩ることにより豊かな草原が育まれ、家畜を飼う人間に実りをもたらしてくれる。
いわば生態系のバランスが保たれてきたのだ。

しかも彼らは忍耐強く、結束力が強いのだという。
青年は、そんなオオカミにたちまち心奪われた。

ところが、政府が推し進める農業政策が草原に暗い影を落としてゆく。
人間にはオオカミほどの結束力はない。
しかも、欲に弱く、情に脆い。

きっかけは、政府の失策により食料難にあえぐ東部の人間が、オオカミたちの食料をごっそり横取りしたことだった。

当然、飢えたオオカミは人間の家畜を襲い始める。
しかも、人民解放軍の軍馬を根絶やしにされたものだから政府の地区管理官はカンカンだ。
そこで、オオカミ駆除の一環として、青年らは巣立ち前の仔オオカミの始末を命じられてしまう。

オオカミの赤ちゃんは仔犬のようにむくむくでとっても可愛い。
タンゴルに魂を送る、つまり尻尾を掴んで岩場から天に放り投げるなんて残酷なことは、青年にはとてもできない。

そこで青年、巣穴で見つけた仔オオカミの一匹を懐に入れゲルに持ち帰り、こっそりと育てることにした。

ああ、そっとしておけばいいものを。

愛らしいこのむくむくを、この手で育ててみたい。
ペットを飼うような感覚で、彼はオオカミを無理矢理人間の世界に持ち込んでしまう。

それがどんな不幸を招くことになるのか、青年にはまだ何も分かってはいなかった。

物語は、内モンゴルで過ごした青年の回想をもとに、驕りや欲望が共存共栄にあったオオカミと人との結びつきを狂わせ、大きなしっぺ返しとなって降りかかる様子を描いたヒューマンドラマ。

厳しい自然と美しさが織り成す広大なモンゴル平原を舞台に、青年の視点で遊牧民の暮らしや掟を見つめてゆく。

あれが欲しい。
そんな若者たちのささやかな欲求が、取り返しの付かぬ悲劇を招いてゆく様子がすさまじい。
全てを人為的にコントロールしようと、さながら地上の主のように振舞っている我々に対する戒めだ。
オオカミたちの尊厳が見る者の心揺さぶり、自然に対する畏怖を呼び覚ます圧巻の一作。

ウィリアム・フォン、
「サンザシの樹の下で」のショーン・ドウ、
レッドクリフ」のバーサンジャブ、
アンヒニヤミ・ラグチャア、
イン・ズーシェン共演。

原題「WOLF TOTEM」
2015年 中国、フランス制作。