吹く風心地よい薄曇りの一日。
映画「クリムゾン・ピーク」を観た。
紅く血に染まった右手を茫然と見つめる若い女性。
頬には刀傷がある。
いったい彼女に何があったというのだろう。
そんな謎めいたシーンから物語は幕を開ける。
時は19世紀後半。
ここはニューヨーク州バッファローの町。
彼女は幽霊を見るのだという。
初めて見たのは10歳の頃。
亡くなったばかりの母の霊に遭遇した。
ひぃぃ、なんで母ちゃんそんな姿で出てくるわけ?
恐れおののき泣き出したくなるような、それはそれはおぞましい姿だった。
恐ろしげなそれはいう。
・・・クリムゾン・ピークに気をつけなさい。
母の霊は謎めいた警告を残し消え去った。
そんな経験もあってか、長じた彼女は幽霊をテーマにした小説を書くようになる。
さて、建設業を営む町の名士でもある彼女の父のもとへ、英国人の若い男が訪ねてきた。
姉を伴ってこの地にやってきたというこの男。
準男爵の称号を持ち、レンガやタイル作りに使われる赤粘土鉱山を所有しているという。
このたび画期的な掘削機を発明した彼は、その事業化にあたって資金援助を募りにやってきたというのだ。
貴族社会に憧れる町のレディたちは、彼の優雅なる振る舞いにメロメロだ。
一方、特権より努力を尊ぶ父譲りの彼女は、熱く事業を語る彼の姿に惹かれた。
それに何より、彼女の小説に共感し褒めてくれたことが嬉しかったのかもしれない。
たちまち惹かれ合う若い二人。
しかし、製鋼業から身を起こした叩き上げの父には、この男の胡散臭さが拭えない。
娘の身を案じ、男とその姉の身辺調査をさせた父の顔がたちまち曇る。
調査書にはいったい何が書かれていたというのだろう。
はした金で体よく姉弟を追い払おうとした父は、ほどなく帰らぬ人となる。
こうして何も知らぬ彼女は、晴れて男と結ばれ英国へと旅立つのだった。
それはさながら美しい蝶が罠に絡め取られてゆくかのよう。
物語は、紅い粘土の大地に佇む古びた屋敷アデラール・ホールを舞台に、幸せな結婚生活を夢見て英国に渡った女性に降りかかる恐怖を描いたホラーチックなミステリー。
果てさて、妖しげな姉弟の目的とは何だろう。
また、死霊漂うさながらホラーハウスのような屋敷に隠された秘密とは。
そして何より、クリムゾン・ピークとは何か。
廃墟化した屋敷の荘厳な佇まいや、血を髣髴とさせる真紅の大地が、謎と恐怖に満ちたストーリーを盛り上げ観客を魅了する。
しかし、この麗しい映像マジックにひとしきり酔いしれた後にはたと気づく。
振り返ってみると資産持ちの女性にまま起こりうるありきたりな悲劇ではないか。
しかも、事件の核心たる姉弟の過去、特にその両親に関しては断片的で納得のいく説明がなされていない。
トム・ヒドルストンのファンには嬉しいが、やや消化不良気味な一作。
「ボヴァリー夫人」のミア・ワシコウスカ、
「パシフィック・リム」のチャーリー・ハナム、
「ライフ・オブ・デビッド・ゲイル」のジム・ビーヴァー、
「アイ・ソー・ザ・ライト」のトム・ヒドルストン、
「欲望のバージニア」のジェシカ・チャステイン、
「レイヤー・ケーキ」のバーン・ゴーマン共演。
原題「CRIMSON PEAK」
2015年 アメリカ、カナダ制作。
R-15+