吹く風爽やかな晴天の一日。
フウセンカズラが5つめの芽を出し、プランターの変化を覗くのが毎日の楽しみになった。
映画「シェフとギャルソン、リストランテの夜」を観た。
水平線を眺めながら、もぐもぐとパンをほおばる白衣の若い男。
一服し休憩を終えた彼は、渚に隣接する小さな厨房に戻ってきた。
そんなシーンから物語は幕を開ける。
ここは、シェフとギャルソンの兄弟が経営するイタリアンレストラン。
冒頭の彼は下働きの助手だ。
さて開店5分前。
シェフがソースを仕上げ、ギャルソンもニンニクを手早く刻み終えると、グラッパを軽くショットグラスであおり客の到来を待つ。
しかし、客が来ねえ。
それというのもシェフの兄貴のせい。
アメリカンドリームを求め、借金をしてはるばる故郷イタリアはボローニャより渡ってきた兄弟。
兄貴の料理の腕はピカイチであったが、妥協を許さぬ頑固な職人気質。
それゆえアメリカ人の客が好む料理が出せない。
ミートボールの入ったスパゲティを出せだァ?
そんなのイタ飯じゃねえ!
てなわけで店はずっと閑古鳥。
借金の返済が滞っているため銀行から新たな融資も受けられず、このままでは店の経営が立ち行かない。
経営を一手に担っている舌先三寸の弟もさすがに焦る。
そこで同郷のツテを頼り、同じくレストランを経営する羽振りの良い老実業家のもとへ借金の申し入れに訪れた。
老実業家いわく、カネは貸せないが人脈を貸してやるという。
友人で有名なジャズシンガーが明日この町にやってくる。
そこで彼らの店に行くよう、手はずを整えてやるというのだ。
有名なジャズシンガーが来店ともなれば新聞に報じられ、店の評判もうなぎ上りだろう。
ありがてえ。
明日からはきっと何もかもが上手くいくに違いない。
さっそく弟は、ジャズシンガーを迎えるためのディナーパーティーを企画。
ここはひとつ町のみんなを招待して豪華ににやろう。
さあ、なけなしのカネをはたいてのレストラン再建計画。
果たして上手くいくのだろうか。
物語は、経営難のイタリアンレストランをとりまく人間模様を描いたヒューマンドラマ。
ジャズシンガーは本当にやってくるのだろうか。
弟は一杯食わされたんじゃないのか。
そわそわと心落ち着かぬ観客の不安をよそに催される、滋味豊かなイタリアンフルコースの一夜を淡々と追ってゆく。
この世は世知辛いものだと物語はいう。
それでも人々は、理想と現実の狭間でうまく折り合いをつけながら、希望をともし火に、今日を生きてゆくのだ。
スクリーンを通して料理のにおいまで漂ってくるかのような描写と、レストランの先行きを伺わせるクライマックスが見事だ。
台詞は無くともちゃんとドラマが存在している。
それぞれの思いが場の空気に凝縮された実に素晴らしいシーンだった。
台詞などという余計なものを入れないそれは、料理に妥協しない兄貴の職人魂にも通じる。
観る者をうならせる一作。
「ヴェルサイユの宮廷庭師」のスタンリー・トゥッチ、
「13ゴースト」のトニー・シャルーブ、
マーク・アンソニー、
ミニー・ドライヴァー、
「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち 」のアリソン・ジャニー、
「ロード・オブ・ザ・リング」のイアン・ホルム、
「ジョイ」のイザベラ・ロッセリーニ、
「エミリー・ローズ」のキャンベル・スコット、
「完全なるチェックメイト」のリーヴ・シュレイバー共演。
原題「BIG NIGHT」
1996年 制作。