おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

イヴの総て

薄日の差す曇り空の一日。
関西も梅雨入りしたようだ。
Singin' in the Rainを口ずさみながら、こうもり傘をぶんぶん振り回し陽気な・・・いや、やけくそなタップダンスを踊りたくなる季節がやってきた。

映画「イヴの総て」を観た。

ここニューヨークで、演劇界における最高の栄誉とされている賞の授賞式が行われている。

今年の受賞者はイヴ・ハリントン。
歴代最年少の受賞となった若手女優だという。

万雷の拍手でもって迎えられる彼女に冷ややかな眼差しを送るのは、ベテラン女優とその恋人の演出家、そして劇作家とその妻だ。
いずれも彼女を知る面々。

さて、このイヴという女優、いったいどんな人物なんだろう。

時を遡ること8ヶ月前。
冷たい霧雨降る夜のことじゃった。
舞台が幕を下ろした頃、劇作家の妻が夫の仕事場である劇場を訪れる。

そこへ、レインハットにヨレヨレのコートの若い女が遠慮がちに話しかけてきた。

おや?
いつも楽屋口に立っている女の子ね。

彼女の名はイヴ。
なんでも出演しているベテラン女優の大ファンで、毎日欠かさず公演を観に来ているという。

あらそんなに好きなの。
ちょうどいいわ、これから会わせてあげる。

その熱心な姿に心動かされた劇作家の妻の手引きで、彼女は念願叶って楽屋のベテラン女優に引き合わされた。

子供の頃からお芝居が好きで、自分でも現実か芝居か分からなくなるほどでした。

そう語るイヴは貧しい農家出身で、夫を戦争で亡くして以来、ベテラン女優の舞台を心の拠り所に毎日を生きているのだという。

なんとも泣かせる話じゃねえか。

一癖も二癖もあるベテラン女優であったが、そんな彼女の身の上に思わず涙してしまった。
しかも謙虚で素直そうな子だ。

こうしてベテラン女優にすっかり気に入られた彼女は、これを縁に付き人として居候することになった。

おお、なんという幸運。
華々しい芸能の世界へ仲間入りか。

よく気が利く上、根回しに長けた彼女。
雇い主であるベテラン女優すら知らぬ間に、その人脈を広げてゆく。

彼女は謙虚で従順な友なのか。
それとも計算高い野心家なのか。

物語は、ニューヨークの演劇界を背景に、関わった人々の回想から、栄冠を勝ち取ったある若手女優の正体に迫ってゆくサスペンス。

他人を利用し、踏み台にして成功への階段を駆け上がってゆくしたたかな女の姿を浮かび上がらせる。
欲しいモノを手に入れるためなら周囲の人間関係を崩壊させてでも取りに行く。
その病的なまでの執着心にゾッとさせられる。

過去に、このイヴに出会った経験がある。
笑顔で近づいてきた彼女が、私が、私が、と他人を遮るように前に出てゆく姿を目の当たりにした時の、心のざわつきや違和感。
それは演技なのか素の行動なのか判別がつかない底知れぬ不気味さだったのだと、今になってようやく合点がいった。

あなたの周りに潜むフレネミー、イヴにご用心。
新生活を始めたときに出会うかもしれない若い人が観ておくべき一作。

十戒」のアン・バクスター
「何がジェーンに起こったか?」のベティ・デイヴィス
「裏窓」のセルマ・リッター
ゲイリー・メリル
「紳士協定」のセレステ・ホルム
ヒュー・マーロウ
ジョージ・サンダース、
グレゴリー・ラトフ
バーバラ・ベイツ、
「百万長者と結婚する方法」のマリリン・モンロー共演。

原題「ALL ABOUT EVE」
1950年 制作。
モノクローム