おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

マダム・フローレンス! 夢見るふたり

熱線がコンクリートをじりじりと焼き付ける。
雲ひとつない一日。

映画「マダム・フローレンス! 夢見るふたり」を観た。

時は1944年。
ニューヨークの音楽活動を支援する会員制クラブの舞台劇から物語は幕を開ける。

主演はクラブの創設者である富豪のマダム、フローレンス・フォスター・ジェンキンス
そして口上役は、いつも彼女にかいがいしく寄り添う秘書の夫だ。

音楽は人生そのものだと熱く語る彼女。
音楽を愛して止まない彼女は、資金援助を求める音楽家たちをカネを惜しまず支援していた。

さて、カーネギーホールで彼女がパトロンをつとめる名指揮者のオペラを鑑賞していた時のことじゃった。
若きディーバの歌声に思わず感涙してしまった彼女は、ふと思った。

ああ、わたしもディーバになって3千人の心を鷲掴みにしたい。

そこでさっそく夫にお願いし、メトロポリタン劇場のマエストロを指南役に、若き無名の伴奏者を雇いコンサートに向けた稽古を始めた。

ところがね、マダムはすさまじい音痴だった。

これとてもじゃないが人前に出せるようなレベルではない。
驚きのあまり開いた口がふさがらない伴奏者。
でも、マエストロは当然のごとくパトロンをべた褒めするものだから、おかげでマダムはすっかりその気になっちゃった。

これ絶対ムリっすよ。
伴奏者としての俺の評判にも傷が付きますッ。

声を潜めて夫に詰め寄る伴奏者であったが、彼女が真実に傷つくのを恐れる夫は、どんな手を使ってでもコンサートを成功させるという。

果てさて、いったいどうなることやら。

物語は、最もへたくそなオペラ歌手として歴史にその名を刻まれた、ある富豪マダムの騒動を描くコミカルでちょっと切ないヒューマンドラマ。

生きがいを音楽に求める妻を傷つけないよう、夫によって守り固められていた虚構の世界。
マダムだけが真実を知らない裸の王様だ。
彼女をおだて上げ利用している罪深い点においては、別宅に愛人を囲っている夫も、成功への足がかりを目論む伴奏者も、カネに群がる他の人間たちと同様だ。

しかし、コンサートに向け二人三脚でマダムを支えるうちに、その愛おしいほど純粋でひたむきな彼女の人柄に心揺り動かされてゆく。
そしてかつては自分たちもその一員であった、一生懸命な人間をあざ笑うという行為がどれほど残酷で醜いものか、肌で感じてゆくのだった。

同じく実話を基に描かれた「偉大なるマルグリット」のシュールなヒロインに比べ、たおやかで繊細な印象を受ける。
さて、どちらがより実話に近いのだろう。
蔑視と配慮。
この相反する人の感情に触れ、ふと自らを省みる一作。

「幸せをつかむ歌」のメリル・ストリープ
「Re:LIFE リライフ」のヒュー・グラント
シリアスマン」のサイモン・ヘルバーグ、
ブリッド・ブレナン、
ガール・オン・ザ・トレイン」のレベッカ・ファーガソン
ディファイアンス」のアラン・コーデュナー、
スタンリー・タウンゼント、
ペントハウス」のニナ・アリアンダ、
クリスチャン・マッケイ共演。

原題「FRORENCE FOSTER JENKINS」
2016年 イギリス制作。