おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

ネオン・デーモン

日差しと共に厳しい暑さが戻ってきた。
まとわり付くような風が吹く晴天の一日。
先月植え替えてから水遣りをしていなかったアルテシーマゴムの葉がぐでーっと垂れ始めた。
乾燥に強いというが、真夏でほぼ一ヶ月持つとは驚きだ。
これで水切れサインがようやく掴めた。

映画「ネオン・デーモン」を観た。

赤いネオンで窓枠を縁取られたほの暗い一室。
派手な化粧を施し、ドレスを身に纏った若い女の遺体がソファーに横たえられている。
ライトに照らされたなめらかな白い肌に見開かれた眼差し。
ざっくりとかき切られた喉から滴る血が生々しい。
それはまるでマネキン人形のようにも見える。
そんな美しくグロテスクな、これから始まる物語を象徴するようなシーンから幕を開ける。

控え室でせっせと血糊をふき取る先ほどの娘。
ああ、ここは写真の撮影スタジオだったのか。
しかし遺体風ポートレートとは、これまた前衛的というか悪趣味というか。

若干16歳の彼女は、モデルを目指し田舎からここロサンゼルスに出てきたばかりのおのぼりさん。
安モーテルで寝泊りしながら、これからモデル事務所の面接を受けまくる予定だ。
そこで、ネットで出会った無名の青年写真家に営業用のポートレートをお願いしたってわけさ。

特段才能には恵まれず、唯一誇れるのはこの美貌だけだという彼女。
これを武器に一旗上げるつもりなのだという。
都会には若い娘を狙う危険が一杯だというのに、なかなか勇気ある行動ではないか。
・・・無謀ともいうけれど。

さて、こうして戸惑いながらもモデル事務所の門を叩く。
そこは同じく美貌を武器に全国から集ったつわもの・・・いや、選りすぐりの美女がずらりとそろっている。

美女たちの中にあっても、彼女は異彩を放っていた。
若いあどけなさも魅力だが、人工的な手が加えられていない純粋な美しさが人目を引くのだ。
さっそく採用担当の目に留まり、新人モデルとして高名な写真家やデザイナーへ引き合わされる。

美容整形や枕営業は当たり前。
そんな美への追求と嫉妬が渦巻く欲望の世界で、彼女は難なく成功への階段を駆け上がってゆく。
そして人々の賛美を受け続けるうちに、いつしか彼女はもうひとりの自分に目覚めてゆくのだった。

物語は、モデルを目指す田舎娘を妖しい世界へ誘う業界人らの人間模様を絡め、女たちの飽くなき美貌への執着と狂気を描いたサスペンス。

夢と現が入り混じったような映像美に目が釘付け。

人は耐え難い体験をしてしまった時、自己防衛本能によって記憶が書き換えられることがあるという。
現実とも妄想ともつかない不可解な描写の数々は、おそらく彼女の記憶の書き換えなのだろう。
直接的表現こそないものの、ヒロインは心を蝕むほどの都会の、そして業界のえぐい洗礼を受けていると推測する。

美に溺れた女たちの浅ましい成れの果てが衝撃的だ。
血の伯爵夫人と呼ばれたエルジューベト・バートリの伝説を髣髴とさせる一幕にゾッとした。

人並み以上に美しすぎるというのも難儀なものだ。
ただ、時とともに失われ行くものに対する執着心に関しては多少理解はできる。

夜に生きる」のエル・ファニング
ドニー・ダーコ」のジェナ・マローン
高慢と偏見とゾンビ」のベラ・ヒースコート
ジェイミー・クレイトン、
アビー・リー・カーショウ、
「ゴッド・タウン」のクリスティーナ・ヘンドリックス、
ゴーストシップ」のデズモンド・ハリントン、
「ジンジャーの朝 さよなら、わたしが愛した世界」のアレッサンドロ・ニヴォラ
カール・グルスマン
「ノック・ノック」のキアヌ・リーヴス共演。

原題「THE NEON DEMON」
2016年 アメリカ、フランス、デンマーク制作。
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