今日も朝からまとわりつくような空気だ。
台風の影響か、湿度がやたら高く体感温度も高め。
澄んだ青い空と入道雲の一日。
映画「ヒトラーの忘れもの」を観た。
時は1945年5月。
ナチスドイツによる5年の占領が終わったここはデンマーク。
疲れ切った顔のドイツ兵捕虜が長い列を成して田舎道を歩いてゆく。
ジープで通りがかった連合軍の軍曹が、ひとりのドイツ兵を引きとめ手にしていた布地を取り上げた。
この旗に触るな!
彼は怒鳴るなり、頭突きを食らわせ執拗に兵士を殴りつける。
ドイツ兵が持っていたのはデンマークの国旗だった。
俺の国から出てゆけ!
デンマーク人軍曹の激高ぶりから、ナチスドイツがこの国で何をしたのかあらかた想像が付く。
そんなシーンから物語は幕を開ける。
ホロ付きのトラックに載せられてゆく捕虜のドイツ軍少年兵たち。
手は震え、まだあどけなさが残るその顔は恐怖で引きつり涙を浮かべている。
彼らは、これからデンマークで戦争の後始末をさせられるのだ。
ナチスドイツは連合軍上陸阻止のため、デンマークの西海岸に220万もの地雷を埋めた。
これをすべて捕虜たちの手で除去させるというのだ。
ドイツ人が埋めたものをドイツ人によって除去させる。
一見、筋は通っているが、作業に当たるのは地雷の専門家でもない少年たちだ。
ビーチに腹ばいになり棒で慎重に探りながら、素手でそっと掘り出し静かに信管を抜く。
気の遠くなるような爆死覚悟の作業である。
簡単な作業のレクチャーを受けた彼らは、それぞれの持ち場に配属されてゆく。
こうして冒頭の軍曹が監督する持ち場にやってきたのは14名の少年たち。
このビーチには4万5千個の地雷が埋まっており、時間あたり6個ずつ除去してゆけば3ヵ月後には故郷に帰ることができるという。
・・・ただし、爆死しなければ。
少年たちはこのわずかな望みにすがるしかない。
一方、軍曹にしてみれば、肩透かしを食ったも同然だった。
地雷に精通した大人の捕虜が派遣されると思っていたからだ。
とはいえ憎っくき敵国ドイツの人間。
たとえ子供でも人間扱いなどする気はない。
他のデンマーク人と同様、占領中の憎しみをぶつけるがとごく少年たちに過酷な作業を課すのだった。
さあ、少年たちは無事作業を終え、故郷に帰ることが出来るのだろうか。
物語は、第二次世界大戦終結後のデンマークで、地雷の除去に強制従事させられたドイツ人少年兵たちの顛末を描くヒューマンドラマ。
仲間が次々と爆死してゆく中、故郷に帰れる日を夢見て恐怖に立ち向かう少年たち。
そんな姿を日々見ているうちに、軍曹は自身の中にくすぶり続ける憎悪と良心の狭間で揺れ動く。
ナチスドイツのホロコーストと何が違うというのだろう。
デンマーク人がドイツ人捕虜に課した報復ともいうべき残酷なバツゲームを目の当たりにする。
苦しむ少年たちを見て薄笑いを浮かべる農婦の姿に鳥肌が立った。
憎悪が人を人ならざるものへと変えてしまう、これが戦争の傷跡なのだと物語はいう。
あまりに残酷な歴史の一幕に衝撃を受けた。
忘れられない一作になりそう。
「真夜中のゆりかご」のローランド・ムーラー、
「特捜部Q 檻の中の女」のミケル・ボー・フォルスゴー、
ルイス・ホフマン、
ジョエル・バズマン、
オスカー・ブーケルマン、
エミール・ベルトン、
オスカー・ベルトン、
レオン・サイデル、
カール・アレクサンダー・サイデル、
「ロイヤル・アフェア 愛と欲望の王宮」のローラ・ブロ、
ゾーイ・ザンヴィリエット共演。
原題「UNDER SANDET」
2015年 デンマーク、ドイツ制作。