今日も入道雲が眩しい。
湿気と熱気で汗ばむ一日。
映画「五日物語 3つの王国と3人の女」を観た。
第一話。
時は中世。
城門の前には大道芸人たちが続々と集まっている。
王座の間に呼ばれた彼らは、入れ替わり立ち代わり芸を披露してゆく。
国王や家来は大いにウケているが、隣の王妃はつまらなさそう。
そのうち席を立ってしまった。
王妃は子宝に恵まれないことを気に病み、すっかりふさぎこんでいるのだ。
さて、その晩のことじゃった。
妖しげな黒衣の魔術師が国王のもとを訪れた。
魔術師いわく、海の怪物の心臓を生娘に料理させ、それを食らうと懐妊するという。
まことじゃろうか。
藁にもすがる思いで国王は怪物を仕留め、命と引き換えに心臓を手に入れた。
そのびくびく動く心臓を、生娘の召使いが丸ごと鍋に放り込むやいなや、妖しい煙がもくもくとたちこめてきたではないか。
あらあら不思議。
煙を吸った生娘のお腹がみるみる膨らんできたよ。
一方、ワイルドに心臓にかぶりつく王妃もみごとご懐妊。
こうして念願の子宝に恵まれるのだった。
それから16年。
王妃と召使いがそれぞれに産んだ子は、ともにアルビノで双子のように瓜二つだった。
互いに惹かれ合うのか二人はいつも一緒。
しかし、王子を溺愛する王妃はそれを快く思わない。
腹を痛めた我が子が召使いの子と同じであっていいわけがない。
我が子との血縁を揺るがせるものを断じて認めるわけにはいかないのだ。
そこで彼女は、あの子には二度と会うなと王子に釘を刺すのだった。
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第二話。
ここに、肉欲に溺れる怠惰な国王がいる。
女をいくら取っ替え引っ替えしても満たされない。
ある日、彼の耳に美しい歌声が聞こえてきた。
歌声に誘われ城から見下ろすと、町屋の前で女が歌っている。
声色から察するに年の頃17、18といったところだろうか。
好色な国王にはたまらない。
あの娘、絶対にモノにしたるわ。
さっそく召使いに贈り物を届けさせた。
実は、この町屋に暮らしていたのは、染物を営む年老いたしわくちゃの姉妹。
声色だけが娘のように可愛らしいものだから国王は勘違いをしたのだ。
煌びやかな首飾りの贈り物に老婆は目が眩み、すっかり舞い上がってしまった。
調子に乗って、お忍びでやって来た国王とドア越しに恋の駆け引きを始めてしまう。
権力を楯に半ば脅しにかかる国王。
こうなってしまうともう後には引き返せない。
暗がりを条件に国王との逢瀬を約束してしまった彼女。
こうして、だるだるにたるんだ肉体を引っ張りにかわで貼り付け、ベールを纏って招待された国王の褥に潜り込むのだった。
ひぃぃいい、なんてグロテスク!
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第三話。
ここに、愛娘が奏でる楽曲に耳を澄ませる国王がいる。
おや?
その時、国王の袖の下から一匹のノミが這い出てきた。
思わず顔をしかめる国王。
潰そうとするものの、そのノミときたら娘の歌に合わせ右へ左へと踊るように跳ねるではないか。
オモロイ。
国王はすっかりこの愛嬌あるノミに夢中になり、内緒でペットとして飼い始めた。
大切にしていた愛娘のことなどいつしか眼中になくなり、娘に与えるはずだった食事までせっせとノミにやってしまう。
こうしているうちにノミはいつしか犬サイズにまで成長するのだった。
もはや怪物である。
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物語は、3つの国に生きる女たちの運命を三本立ての寓話に仕立てた奇怪なファンタジー。
狂おしい母性の果てに。
あるいは美貌と若さへの執着の果てに。
あるいはノミに心奪われた父王の愚行の果てに、彼女らを待ち受ける運命とはいかに。
全ての行いには結果が伴うと物語はいう。
大人向けの残酷なおとぎ話を絵画を切り取ったような美しい映像で描き出す。
入れ替わり立ち代わり描かれる3つのストーリーには接点があり、ひとつの物語として上手く構成されている。
おぞましくも奇想天外な展開が見る者の目を釘付けにする、ゾッとしたい真夏の夜にふさわしい一作。
「ロンリーハート」のサルマ・ハエック、
「少年は残酷な弓を射る」のジョン・C・ライリー、
フランコ・ピストーニ、
クリスチャン・リース、
ジョナ・リース、
「チャイルド44 森に消えた子供たち」のヴァンサン・カッセル、
ハイリー・カーマイケル、
「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のシャーリー・ヘンダーソン、
キャサリン・ハンター、
ステイシー・マーティン、
「モーガン プロトタイプL-9」のトビー・ジョーンズ、
ビビー・ケイヴ、
「アサイラム 監禁病棟と顔のない患者たち」のギヨーム・ドゥロネ共演。
原題「TALE OF TALES」
2015年 イタリア、フランス、イギリス制作。
PG-12