おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

セル

どんより雨まじりの一日。
窓が割れそうなほど歪み、街路樹を根っこごとなぎ倒し、建材やら何やらありえないものが空を舞っていた悪夢のような台風から数日。
休日返上で傷んだ街の復旧が行われている。
フウセンカズラは実を落とし葉がすっかり痛んでしまった。
今年の種は絶望的だ。
大きな地震に見舞われた北海道はどうなっているのだろう。
畳み掛けるような災害に現実逃避したくなる今日この頃。

映画「セル」を観た。

ここはボストンの大空港
行き交う利用客そして空港職員の多くがスマホンやイヤホンマイクを耳に押し当て、絶えずどこかの誰かと通話をしながら動いている様子が見て取れる。
そんなシーンから物語は幕を開ける。

さて、遠路はるばる商談を終え、空港に降り立ったばかりの中年男がいる。
彼はコミック作家。
このたび新作「闇夜の旅人」を破格の値段で買い上げてもらうことが決まり、さっそくスマホンを取り出し家族に喜びの報告だ。

ニューハンプシャーで別居中にある妻と息子が出た。
彼の心の弱さが別離を招いてしまったこともあり、息子に会いたいがなかなか会わせてもらえる状況にない。
そんなわけで、久々に息子の顔が見られる貴重なビデオ通話だった。

ところが間の悪いことにスマホンのバッテリー切れ。
くそう、こんな時に!
ざっと空港内の充電スポットを探すも、いずれも使用中だ。
やむなく公衆電話から掛けなおしていたその時、異変は起きた。

突然、周囲の人々が苦しみうめき声を上げながら痙攣し始めたではないか。
いずれも携帯で通話中だった人々だ。
たちまち奴らはゾンビのように凶暴化し、手当たり次第に人を襲い始めたものだからさあ大変。
空港内は阿鼻叫喚地獄
追い討ちをかけるように航空機まで突っ込んできたよ。

暴徒と炎から逃れ地下鉄へ続くエスカレーターを転げ降りた彼は、停電で真っ暗になった構内で、辛うじて難を逃れた人々に出会う。

しかし、ホッとするのもつかの間。
停電で地下水を汲み上げるポンプが止まり、いずれ構内は水没してしまうという。
こんな所でぐずぐずしちゃいられない。
何よりニューハンプシャーの妻と息子が心配だ。

彼は、地下鉄運転士の男と連れ立って暗い線路を歩き始めた。
やがて地上に出た彼らが目にしたもの。
それは廃墟になった街の有様と、まるで巨大な意識体の一部になったように個性を失い、群れを成して行動する人々の異様な姿だった。

一体、世界に何があったというのだろう。
携帯を使った何らかの軍事攻撃なのだろうか。

ほどなく携帯のパルスを逃れた彼らにも異変が現れ始めた。
赤いフードの怪人が登場する悪夢にうなされるようになったのだ。
赤いフードの怪人。
それは彼が描いた「闇夜の旅人」の登場人物ではないか。
なぜ創作が現実と化しているのだろう。
群衆を操り、彼らを誘う赤い怪人の正体はいかに。
またその目的とは何か。

物語は、携帯のパルスに操られた群衆が蠢く終末世界を舞台に、息子を探し旅する男の姿を描くサバイバルホラー

携帯で通話中の人々が一斉に異常をきたす、この日常の風景が一変してしまう掴みが上々。
続いて謎が謎を呼ぶ展開が待ち受けている。
終末世界に取り残された恐怖や心細さとあいまって観る者の目を釘付けにする。

謎解きが十分になされないまま迎えるクライマックスをそのまま受け取るか、はたまた深読みするかで物語全体の印象が様変わりする。

主人公が創作した赤いフードの怪人の正体は、彼から家族を引き裂く辛い現実、すなわち恐怖の具現化だろう。
とどのつまり、仕事や家庭に行き詰った現実から目を背け、正気を失い自身の作り出した妄想の世界に逃避してしまったと見るのが妥当か。
テーマは病める人々だ。
結末を観客の想像力に委ねてしまったため、すっきりしない一作。

地下鉄に乗ると一斉にスマホンを取り出し操作を始める人々。
彼らを見るたびに、この作品の冒頭を思い出しそう。

ペーパーボーイ 真夏の引力」のジョン・キューザック
ヘイトフル・エイト」のサミュエル・L・ジャクソン
エスター」のイザベル・ファーマン、
「ニュースの真相」のステイシー・キーチ
オーウェン・ティーグ、
クラーク・サルーロ、
アンソニー・レイノルズ、
エリン・エリザベス・バーンズ共演。

原題「CELL」
2016年 制作。
PG-12