おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

サンキュー・スモーキング

次第に雨が降り始めた。
湿気を含んだひんやりした空気が心地よい一日。

映画「サンキュー・スモーキング」を観た。

たばこのパッケージデザインにスタッフロールをはめ込んだ洒落たオープニングから物語は幕を開ける。

客席を前にしたテレビの公開討論番組が行われている。
パネリストは、子供の喫煙問題に取り組む女性団体、患者団体、保健福祉省の役人、喫煙によってがんに冒された少年、そしてにこやかな笑顔を振りまく中年男。

笑顔の彼こそは、日に1200人も殺すたばこ業界のロビイストにしてスポークスマン。
巧みな話術で論点をすり替えたちまち人を煙に巻いてしまうディベートの天才だ。
今日も喫煙の害について彼が槍玉に挙げられるはずだったが、難なく矛先をかわし客席を納得させてしまった。

世は健康志向の風潮で、たばこ業界への風当たりは特にきつい。
業界と世論の仲介役といえば聞こえはいいが、彼はそんな業界の憎まれ役を一手に引き受けている。
とはいえ彼も人間だもの。
公の場で日々罵られるのは決していい気分じゃない。

ただ、彼には友がいた。
アルコール業界と銃器業界のロビイストだ。
これまた死者数を競うほどのダーティな業界人。
彼らはさしずめ憎まれ役三兄弟といったところだろうか。
互いに愚痴をこぼしあったり、アドバイスをし合ったりと、この気の置けない仲間との週一回の晩餐会が彼にとって息抜きの場になっていた。

さて、彼の仕事は公開討論のみならず。
ハリウッドとタイアップした新たなイメージアップ作戦を提案し、健康被害の訴訟に当たってはうまく示談に持ち込んだ。
ボスの信頼も篤く、彼のキャリアは順風満帆かに思われた。

ところがここにきて雲行きが怪しくなる。
視聴者と意見交換をするテレビの生番組出演中のことじゃった。
それまでの和やかな雰囲気が一転。
彼は、電話の向こうの視聴者から殺害予告を受けてしまうのだった。

物語は、情報戦によって世の流れを操る業界ロビイストの裏側をシニカルな口調で語るヒューマンドラマ。

学者や専門家の意見は所属する団体の意見であり、彼ら個人の意見ではない。
彼らも我々と同じくメシやローンのために働く労働者に過ぎない。
よって、その情報が正しいか誤りであるかは意味のないことなのだ。

そもそも物事は必ずしも二者択一ではない。
溢れる情報を鵜呑みにせず、客観的に見つめなおし答えを導き出す。
そして自分が出した答えに責任を持つ、主体的な人生を送ることの重要性を物語を通して説いている。

自分の頭で考えるという当たり前のことが出来てないことにはたと気づかされる一作。
フェイクニュースに踊らされがちな我々への戒めとも取れる。

アイ・フランケンシュタイン」のアーロン・エッカート
「ライト/オフ」のマリア・ベロ
「クランプス 魔物の儀式 」のデヴィッド・ケックナー、
ウルトラヴァイオレット」のキャメロン・ブライト、
ゴーン・ガール」のキム・ディケンズ
リンカーン弁護士」のウィリアム・H・メイシー
ザ・コンサルタント」のJ・K・シモンズ
アウトロー」のロバート・デュヴァル
「恋するリベラーチェ」のロブ・ロウ
「噂のモーガン夫妻」のサム・エリオット共演。

原題「THANK YOU FOR SMOKING」
2005年 制作。