おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

ノスタルジア

雲間から申し訳程度に日差しが注ぐ一日。

映画「ノスタルジア」を観た。

黒いショールに身を包んだ女性たちが、小さな子供と犬を連れ野原を歩み行く。
靄に煙るその向こうには、佇む白馬と湖が見える。
なんて幻想的な光景だろう。
彼女たちは何かを探しているのだろうか。
しきりにあたりを見回しはじめた。
そんな謎めいたモノクローム映像から物語は幕を開ける。

トスカーナの靄に煙る草原を一台の車が行く。
車から降り立ったのは美女と中年男。

この景色は故郷モスクワを髣髴とさせるという。
郷愁に駆られたのか、美女は向こうに佇む古びた教会を目指し歩き始めた。

一方で男は、美しい景色など見飽きている。
うんざりだとぼやき、教会に近づこうともしない。

男はソビエトの詩人にして作家。
18世紀にこの地を訪れた音楽家サスノフスキーの伝記を手がけている。
連れの美女は通訳だ。
ローマで出会った二人は、サスノフスキーの足取りを辿りイタリアを縦断旅行しているという。

宗教が禁じられているソビエトと違い、イタリアは信仰に篤いお国柄。
石造りの古びた教会で、人々は今日も神を心の拠り所に祈りを捧げている。

でもさ、せっかくの取材旅行なんだから見るくらいいいじゃんね?

長年、国家の奴隷として生きてきた彼にとって、それは受け入れがたい行為なのかもしれない。
自由というものを知らない彼は、ホテルの部屋に置かれた聖書をひも解くのにもためらいを覚える。
頑なな彼の心は、異国の地でアバンチュールを楽しもうとする連れの誘惑にも揺らぐことはなかった。

さて、そんなつまんない彼が、ヴィニョーニ温泉でふとある男の噂を耳にする。

そいつは、終末論を信じる狂信者で、家族を巻き添えに7年間も家に立て籠もる事件を起こしたのだという。
町の人々があざ笑う、いわゆるキチガイだ。

男をそんな行動に走らせたものとは何だろう。

なぜか彼はいてもたってもいられなくなり、直接話を伺うべく男の住む廃屋を訪れるのだった。

物語は、自由のない社会に生きる男が、魂の救済を求めて彷徨う姿を描き出す。

モノクロームで描かれる心象風景とカラーで描かれる現実を行き来しながら、とりとめもなく移ろう人々の会話を追って行く。

芸術性を追求した美しいカメラワークと、滴る水音が見る者を不思議な世界に誘う。
推して知るべしと言わんばかりの作風の上、夢の中を彷徨っているかのような不可解な描写が多く、予備知識のない観客には何が何だか分からない。

心象風景の中の人々、すなわち彼の記憶の中の女性たちは心の拠り所を探していたのだろうか。
彼が信仰という救済を得たことによって、記憶の中の風景ごと巨大な教会の内部に取り込まれる圧巻のラストシーンが印象的。

直接的な体制批判を避けたのだろうか。
作り手の不親切に呆れる難解な一作。

オレグ・ヤンコフスキー
ドミツィアーナ・ジョルダーノ
「存在の耐えられない軽さ」のエルランド・ヨセフソン
デリア・ボッカルド
ラウラ・デ・マルキ共演

原題「NOSTALGHIA」
1983年 イタリア、ソ連 制作。