おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

雨の日は会えない、晴れた日は君を想う

冷たい北風に乗って雪がちらつく極寒の一日。

映画「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」を観た。

あなた、ぜんぜん気づいてないでしょ。
冷蔵庫が2週間も前から水漏れしてんのよ。
ねえ、直しといてよ。

ハンドルを握る妻のぼやきを、助手席で曖昧な笑みを浮かべ聞き流している男がいる。
彼は、妻の父、つまり義父が経営する投資会社に勤めている。
仕事をそつなくこなし、将来を嘱望されてる若き役員だ。
いわゆる逆玉ってやつだね。
妻とは成り行きで付き合い、結婚し、今に至る。
周囲のことには無関心で、いつも周りに流されるまま生きてきたような人間だ。

自分には関係ないといつものようにへらへら笑いごまかす夫を、呆れたような表情で妻は見つめる。
次の瞬間、ものすごい衝撃が二人を襲う。
そんな自動車事故のシーンから物語は幕を開ける。

処置の痕が生々しい誰もいなくなった手術室の椅子で彼は目覚めた。
幸いかすり傷だ。
ところが妻は亡くなってしまったというではないか。

ヨロヨロと廊下に歩み出た彼は、とりあえずチョコレート自動販売機のボタンを押す。

あれれ?
チョコが出てこない。

・・・というか、この状況でよく食えるな。

妻のいないモダンな豪邸にひとり帰り、ひとり眠る。
そして、先ほどの自動販売機の会社にクレームの手紙をしたためる。
つつがなく妻の葬儀を終え、いつもどおり出社して仕事する彼を、社員たちは驚きの表情で見つめるのだった。

それもそのはず。
彼は何も感じない。
どういうわけだか妻が死んだというのに辛くも悲しくもないのだ。

誰かに相談したいものだが、彼には心の内を打ち明けるような友達もいなかった。
そこで、妻との出会いからチョコレートを買うに至った経緯、果ては日常の雑感まで、これまで誰にも話したことがなった正直な思いを手紙にしたため、先ほどの自動販売機の顧客窓口に宛ててせっせと送り始めた。

手紙を書きながら彼は思いを巡らせる。
何も感じない自分は、なんか壊れてしまったんやろか。
それとも、もともと妻のことをこれっぽっちも愛していなかったのか。

その時、ふと義父の言葉を思い出した。
何かを直すときは分解して、その原因を見極めるのだ。

そうだ、分解して原因を突き止め、再構築すればすべて元通りになるかも。
真に受けた彼は、今度は問題の冷蔵庫やトイレ、パソコン、身の回りのあらゆるものを破壊するという取り憑かれたような奇行に走るのだった。

物語は、喪失感をテーマに、妻の死をきっかけに心が麻痺してしまった男のあがきを描くヒューマンドラマ。

些細な思い出、でもとても大切な思い出。
日常の雑事に追われて、あなたは見落としていませんかと物語はいう。

肉親の死に際して誰もが悲しみに浸れるわけじゃない。
この男のように、ショック状態に陥る場合もあることを知る。

水漏れの冷蔵庫に、あるいは車のサンバイザーに。
無関心な彼に宛てて、ひっそりとモノを擬人化させた付箋のメッセージを残していた妻。
ああ、なんてこと。
見ているようで見えてなかった妻の可愛らしさや愛に、彼はようやく気づくのだ。
この、彼を苦しめていた呪いが解ける瞬間は、観る者の涙を誘う。
これを邦題に持ってきた人のセンスに脱帽。

ナイトクローラー」のジェイク・ギレンホール
ヘザー・リンド
夜に生きる」のクリス・クーパー
サイド・エフェクト」のポリー・ドレイパー
「ダイバージェントFINAL」のナオミ・ワッツ
ジュダ・ルイス
C・J・ウィルソン共演。

原題「DEMOLITION
2015年 制作。
PG-12