おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

歌声にのった少年

ぽかぽかと日差し暖かな晴天の一日。

映画「歌声にのった少年」を観た。

時は2005年。
たゆたう海面の向こうに黄土色の町並みが見える。
ここはパレスチナ ガザ地区
路地で子供たちがサッカーを楽しんでいる。
おやおや?
彼らはどうやらカネを賭けていたようで、勝敗を巡って揉め始めた。

一瞬の隙を突いて、少年とその男勝りの姉がカネを奪って駆け出した。
二人はパルクールさながらの俊敏さで追っ手をかわし、縦横無尽に街を駆ける。
そんなガザの子供たちを捉えたシーンから物語は幕を開ける。

仲間とバンドを組んでいる少年と姉は、こうして得たカネを楽器を買うべく貯めている。
夢はこの街を出てスターになり世界を変えること。

しかし、封鎖されたこの街では本物の楽器などそう手に入らない。
それに子供からなけなしのカネをふんだくるタチの悪い大人もいるんや。
それでも彼らはあきらめない。
浜で獲った魚を売り、モスクではコーランの歌い手を引き受ける。
こうしてバイトに励んだ彼らは、ついに念願の中古楽器を手に入れた。
気のいいバンドマンから稽古を受けつつ、子供ながらにウェディングシンガーとして仕事を得るまでになったよ。

ところが、ギターを弾いていた姉が突然倒れた。
なんてことだろう。
まだ幼いのに腎不全だというではないか。
腎臓移植には高額の医療費がかかり、それは少年の家庭で賄える金額ではなかった。
腎臓を買うためにバイトに精を出す少年やその仲間の努力もむなしく、透析を続けていた姉は若くしてこの世を去ってしまうのだった。

それから7年。
イスラエルの攻撃が続くガザ地区の状況は深刻で、街のほとんどが瓦礫と化している。
青年になった彼は、タクシーの運ちゃんをやりながら大学の学費を稼ぐ日々を送っている。

歌への情熱は失っていない。
しかし、イスラエル方面は厚く鉄条網で覆われ、エジプト入国に必要なビザは下りない。
ガザを出ること叶わず、イスラエル当局による相次ぐ送電の停止で、スカイプで参加するオーディションのチャンスもフイになってしまったよ。
ガザの声は世界には届かないのだ。

もう、心折れそう。
絶望に負ける前に、ここを出たい。

ちょうどその頃、エジプトのカイロで行われるオーディション番組が締め切り間近となっていた。
おなじみ「アメリカン・アイドル」のアラブ版、その名も「アラブ・アイドル」だ。
そこで彼は、命をかけたガザ脱出を決意するのだった。

物語は、故郷ガザの、そしてパレスチナの星として人々の希望を背負い、アラブ圏のアイドル発掘番組でみごと優勝を勝ち取った青年ムハンマド・アッサーフの軌跡を追う。

自転車で街を駆け抜けてゆくと、やがて開けた野原の先に鉄条網が現れる。
子供らの冒険を阻むそれは延々とどこまでも続いている。
まるで彼らを閉じ込めているかのように。
そんな不条理な現実を少年たちの視点で切り取った、ガザの日常風景を見つめる貴重な一作。
置かれた状況を嘆いていても仕方がないよねと笑顔で言い放つ、子供たちの逞しさに心震えた。

カイス・アタッラー
ヒバ・アタッラー
アブダルカリーム・アブバラカ
アハマド・カセィーム
ティア・フセイン
マナル・アワド
ワリド・アベド・エルサラム
アレクサンドリア」のアシュラフ・バルフム
アメル・レヘル
タウフィーク・バルホーム
ディーマ・アワウダ
アハマド・ロッホ
サーベル・シリーム
「キャラメル」のナディーン・ラバキー共演。

原題「YA TAYR EL TAYER」
2015年 パレスチナ制作。