おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

テナント 恐怖を借りた男

日差しはあるものの、昨日から天候が不安定で冷たい強風が吹き荒れている。
せっかく見ごろを迎えたハクモクレンの花がこの風で吹っ飛んでしまわないか心配。

映画「テナント 恐怖を借りた男」を観た。

中庭をぐるりと囲むようにいつくもの窓が並ぶアパート。
窓辺に佇む人物がレースのカーテン越しに外を見ている。
その目線の先にある窓には、ぼんやりと若い女性の姿が。
・・・おや、次の瞬間その姿は男性にすり変わった。
そんな意味ありげなオープニングロールから物語は幕を開ける。

ここはパリの古びたアパート。
空き部屋を探す若い男が訪ねてきた。
イマドキのパリは住宅不足で、大家はおろか管理人のオバハンすらもいけずでめっちゃ愛想がない。
強気の家賃と礼金は、びた一文負けないという。

エレベーターなし、トイレ共同。
あまり条件はよくない。
美しい楕円の螺旋階段を上った先の部屋には、調度品はもちろんのこと前の住人の暮らしがそっくりそのまま残されていた。
しかも、前の住人は窓から投身自殺を図ったというではないか。

えぇえええ、じ、事故物件っすか!?

窓から下を覗くと、なるほどせり出したガラス屋根がぶち破られた跡が生々しい。
飛び降りた若い女はまだ息があり病院にいるという。
しかし、そう長くはないと見込んだ大家は、部屋を次の住人に貸し出す気なのだ。

彼女に何があったのだろう。

お人好しな彼は、その理由がとても気になる。
そこで真相を探るべく、おそるおそる病院を訪ねた。
そこには包帯で全身をぐるぐる巻きにされてベッドに横たわる痛ましい女の姿があった。
しかも、意識朦朧としていた彼女は、男を見るなり恐怖に叫びはじめるではないか。

い、いきなり、なんやなんや!?
怖くて叫びたいのはこっちの方や。

ほどなく彼女は息を引き取り、正式に空き室となった部屋へ彼は引っ越してくるのだった。

・・・事故物件借りるんかいッ!?

暮らし始めてほどなく、向かいの共同トイレの窓辺にぼんやり佇む人影を見るようになった。

はて、妙な人やな。

死んだ女の遺品が部屋のそこかしこに残っているせいもあり落ち着かない。
その上、大家や住人から謂れのない騒音の苦情が寄せられるではないか。

うるせえ!
おれの部屋で、おれがどう過ごそうと自由だッ!

そうハッキリ自己主張できたらいいんだけれど、男は優しく、揉め事を避けるあまり強気に出られない性格。
黙って相手の主張を飲むしかない。
次第に音に対し異常なほど敏感になり、息を殺して生活するようになってゆく。

これは集団ストーカーではないのか。
住人たちが大挙して、このアパートに相応しい住人となるようおれを洗脳しようとしている。
死んだ女も、こうやって追い詰められたのではないだろうか。
そして彼らは、おれに彼女と同じ運命を辿らせるつもりではないだろうか。
彼は、そんな妄想に囚われてゆくのだった。

物語は、死が付きまとうアパートの一室に越してきた男の顛末を描くホラーサスペンス。

全てを女の死と結び付けてしまうあまり、些細な出来事すら疑念と恐怖に変わりゆく。
ごく普通の男がじわじわと精神を蝕まれてゆく様が見どころ。

全ては彼の妄想なのか、それともこの部屋に染み付いた呪いなのか、判別しがたい二つの恐怖が入り混じる一作。

主人公が公園で子供をぶん殴るシーンが印象的。
我の強い人間の象徴に子供を見立て、直接的な表現を避けつつ、あえてタブーに挑戦した作り手の姿勢がすごい。

「世代」のロマン・ポランスキー
「ボン・ヴォヤージュ」のイザベル・アジャーニ
「チャンス」のメルヴィン・ダグラス
アルフィー」のシェリー・ウィンタース
「暴力脱獄」のジョー・ヴァン・フリート
リラ・ケドロヴァ
ベルナール・フレッソン
ローマン・ブテイユ
ジョジアーヌ・バラスコ
ジャック・モノー
パトリス・アレクサンドル共演。

原題「THE TENANT」
1976年 フランス、アメリカ制作。