おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

チョコレート

朝から暖かく、日中は夏日になった。
ちょこちょこと集めていたヤマザキ春のパンまつりのシールが再び満点になった。
今年も2枚、軽くて丈夫な白いお皿をありがとう。

映画「チョコレート」を観た。

夜中にふと目覚めトイレに駆け込む中年男。
どこか身体の具合でも悪いのだろうか。
嘔吐している。
その後、なじみのダイナーへ車を走らせ、そこでいつものチョコレートアイスをパクつく。
これが彼のささやかな喜びであり日課のようだ。
そんなシーンから物語は幕を開ける。

彼は、老父と息子の三人暮らし。
親子三代にわたりジャクソン刑務所で看守を勤めている。
電気椅子にかけられる死刑囚に執行官として向き合う、失敗の許されない厳格な仕事だ。
要介護の老父は既に引退済みだが、このたび新人の息子が、彼の部下として初仕事に挑む。

この息子がいささか頼りない。
彼は老父ゆずりのばりばりのレイシスト
だのに息子ときたら分け隔てなく黒人と接し、あろうことか仲良しの黒人少年たちを家に招いたりする。

世も末だ。
昔は白人と黒人の住み分けが出来ていたというのに。
さっさと忌々しいあいつらを追い出せ。
彼は、そうぼやく老父に倣いショットガンで威嚇し少年らを追い返してしまうのだった。

さて、いよいよ死刑執行の前夜。
英国では執行前夜にパーティを開く慣わしがあるという。
それは化け物の集会・・・モンスターズ・ボールと呼ばれる。
老父から伝え聞いたそんな薀蓄を息子に聞かせてやり、期待を込めて共に酒を酌み交わす。
よし、何もかもが完璧だ。

ところが息子ときたら、この記念すべき初仕事の場でしくじりやがった。
死刑囚に共感し、死に追いやる罪深さに耐えられず、最後まで立ち会うことができなかったのだ。
死刑囚の最期を汚したと彼は息子をなじり、したたかに殴りつける。

その翌日、息子は彼と老父の目の前で自害した。

父さんは僕をずっと憎んでいたの?
僕は父さんを愛していたよ。
それが息子の最期の言葉だった。

息子の葬儀の最中、老父が吐き捨てるように言う。
・・・軟弱なやつだったな。

その言葉を耳にした瞬間、彼の中で何かが弾けた。
皮肉にも息子の抗議の死によって、老父の呪縛からようやく目覚めたのだ。
自分はいい父親じゃなかった。
父に愛されたい、認めてもらいたいがために、彼もまた息子と同様に自身を押し殺し、父の言いなりの人生を歩んできたひとりであった。

転機を迎えた彼は、長年勤めた看守の仕事をすっぱりと辞めた。
そして人目を忍ぶことなくダイナーで好物にありつく。
仕事は・・・そうだな、ガソリンスタンドを買い取り経営を始めようか。

そんな自らの人生をやり直し始めた矢先のことじゃった。
ダイナーの帰り道、暗い道端で助けを求める黒人の母子に遭遇する。
息子が車に轢かれてしまったのだと母は嘆く。

相手は黒人だ。
かつての彼なら通り過ぎたことだろう。
その時、ふと死んだ息子を思い出した。
そして自らの心の声に従い、助けるべきだと思った。

こうして母子を車に乗せ病院に運んだ彼は、ほどなく知る。
なんの因果だろう。
母子は、ついこの間、彼が執行した死刑囚の遺族であった。

物語は、自立を阻む毒親との葛藤を描いたヒューマンドラマ。

親が良かれと思っていることが、子にとって必ずしもそうとは限らない。
白人看守一家、黒人遺族の姿を通し、愛とは名ばかりのいびつな親子関係を見せ付ける。

どうか彼に救いを、と祈るような気持ちで見つめる我々の期待を、覆水盆にかえらずとばかりに物語は冷ややかに突き放す。
このモンスターズ・ボールというタイトルを鑑みるに、幸せな門出はありえないのだろう。
ラストシーンはおそらく彼の執行前夜であろうから。

見事な伏線と作り手の表現力に圧倒される。
心にずしりと重くのしかかるような見ごたえある一作。

「カットバンク」のビリー・ボブ・ソーントン
「ROCK YOU!」のヒース・レジャー
ピーター・ボイル
ショーン・コムズ
ザ・コール 緊急通報指令室」のハル・ベリー
コロンジ・カルフーン
「はじまりのうた」のモス・デフ共演。

原題「MONSTER'S BALL」
2001年 制作。
R-18