おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

蜘蛛女

曇り空の一日。
バジルとフウセンカズラが芽を出し始めた。
フウセンカズラは種の殻が硬いため蒔く前に針で傷をつけてやったのだが、それでも芽吹くのに難儀している模様。
頭に黒い殻をつけたまま立ち上がろうとする小さな姿がけなげだ。

映画「蜘蛛女」を観た。

ここはアリゾナ州フェニックス。
だだっ広い荒野を貫く国道沿いに、うらぶれた無人のダイナーがある。
店主がひとり、埃まみれのカウンターを黙々と拭く。
毎年5月1日と12月1日に、決まってここへやってくる男がいるという。

そいつは、指輪が挟まったアルバムを置いていったらしい。
表紙をめくるとライスシャワーを浴びる幸せそうな結婚式の写真が目に飛び込んでくる。
今日は5月1日。
他人事のように語るが、他でもない店主自身のことである。
さて、彼にはいったいどんな事情があるというのだろう。

時を遡ること5年ほど前。
当時の彼は、たたき上げの巡査部長。
美しい女房と都会の一角に小さな家を構えていたが、無類の女好きゆえ愛人もいた。
でもそれ以上にカネが好きじゃった。

警察の職務は薄給で、夢多き野心家の彼は当然のごとく汚職に手を染めはじめる。
司法取引で裁判の証人として警察保護下にある人物の居所をマフィア側に売るのだ。
マフィアの口封じにちょっと協力するだけ。
電話一本で年収以上の報酬がもらえるのだからやめられない。
しかも報酬には税金がかからない。
このカネをせっせと庭の隅に埋め、夜中にこっそり眺めては悦に入るのが常だった。

ところが、今回はいつもとは事情が違った。
マフィア側の放った女殺し屋が、証人はもちろん護衛のFBI捜査官まで殺害。
事件現場は食肉工場さながらの凄惨さだったという。

この女のクレイジーっぷりにはマフィアも手を焼くようになった。
既に逮捕され女の身柄が警察の手の内にあるということで、このたび彼女の殺害をマフィアが依頼してきたのだ。
さあ、いったいどんな女なのだろう?

それはいわゆる彼好みの、そそられる美女であった。
しかも彼女は甘い誘惑と共に、マフィアのさらに上を行く高額の報酬を提示してきたではないか。
見逃してくれたら大金持ちになれるわよ。

これまで女房と愛人の間で上手く立ち回ってきたように、マフィアと女殺し屋の間でだって上手く立ち回れるに違いない。
しかしそれは、甘い見通しであった。

物語は、欲に溺れ、取り返しの付かない事態を招いてゆく汚職刑事の顛末を回想風に描いたクライムサスペンス。

駆け引きに翻弄される男の姿が実に哀れ。
邦題は、あの羽交い絞め技にちなんでいるのだろうか。
がははははと豪快な笑いと共に襲い来る、オリン姐さんの悪夢のような色気と狂気に目が釘付けだ。

あれも欲しい。
これも欲しい。
そうやって、ありもしない夢を追いかけてしまう。
な?
男ってアホやろ?と後悔と哀愁を滲ませながら物語は締めくくられる。
全編通してきた軽快な語り口調とはうってかわって、思いのほか切ないラストがじーんと後を引く一作。

「クリミナル 2人の記憶を持つ男」のゲイリー・オールドマン
「ゆりかごを揺らす手」のアナベラ・シオラ
「カリフォルニア」のジュリエット・ルイス
「ヒプノティスト 催眠」のレナ・オリン
「ワイルドガン」のマイケル・ウィンコット
ロイ・シャイダー
クロッシング」のウィル・パットン共演。

原題「ROMEO IS BLEEDING」
1993年 制作。