おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

鬼火

からっとした晴天の一日。

映画「鬼火」を観た。

じっと見つめ合う二人の間に気だるい空気が漂う。
ベルサイユにある安ホテルの一室で、肌を重ねる男女の姿から物語は幕を開ける。

女は仕事のためニューヨークからやってきた実業家で、彼の妻の親友にあたるという。
近しい交友関係内における不倫関係である。
妻に対する酷い裏切り行為だ。

男はアルコール依存症で、目下療養所にて入院中とのこと。
わざわざ外出許可を取り付けての情事だ。

妻はニューヨーク在住の小金持ちで、毎月生活費の小切手を送ってくれる。
おかげで彼は、お屋敷のような療養所で優雅な生活が送れるというわけだ。
おいおい、おっさんヒモかよ。

アルジェリア時代は将校として活躍し、常宿のバーで仲間と酒を酌み交わす。
男にも女にもモテモテの、パリで名を馳せた伊達男だった。
きれいな米国人女と所帯を持ち、ニューヨークへ渡ったのが運の尽きだったのだろうか。
以来、人生が緩慢過ぎてつまらなくなり、酒に溺れてしまったというわけだ。
つまり、結婚に向いていなかったんやね。

アルコール依存は改善しており、療養所の医師からは退院を勧められている。
しかし、ニューヨークの妻のもとへは戻りたくない。
理想とはかけ離れた社会に戻るのがどうしょうもなく怖いのだ。
ああ、若かりし頃のように気の赴くまま自由に生きられたらいいのに。

行き場を失いそうな彼は、死に憑り付かれすっかりうつ状態
とはいえ拳銃の引き金を引くのもためらわれる。
そこで、自分の寂しさを埋めてくれそうなかつての仲間を訪ねるべく、パリの街へと繰り出すのだった。

物語は、平凡な人生を嫌厭し、逃避しようとする男の足取りを追うヒューマンドラマ。

いい年して大人になりきれない甘ったれた高等遊民の戯言が延々と続き、サティのグノシエンヌ第1番が、うつ男がまとう気だるい空気に誘う。
うつが伝染してこっちまでうつっぽくなりそうだ。
勘弁してけろ。

カネと時間に恵まれ、きれいな妻もいる。
それでも彼は満たされず孤独だという。
そんな、うつ病の行動や心理に迫る一作。
今でこそ広く認知された病だが、当時は一般には理解しがたくニッチな作品だったのかもしれない。

うつは気の毒だが、ただ、彼は優雅な高等遊民
現代を生きる我々の方がよっぽど厳しい境遇じゃないか。
その贅沢な悩みに全く共感できず、耐え難いほど退屈。

モーリス・ロネ
レナ・スケルラ
ジャン・ポール・ムリノ
ベルナール・ノエル
ウルスラ・キュブラー
「パリの灯は遠く」のジャンヌ・モロー
ジャック・セレ
栄光への脱出」のアレクサンドラ・スチュワルト共演。

原題「LE FEU FOLLET」
1963年 フランス制作。
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