おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

パイロマニアック 炎の中の獣

じめっと蒸し暑い晴天の一日。
この間の雨で沸いた蚊が室内に紛れ込んだようで、夜中にかゆくて目が覚めた。
たった一匹とはいえ厄介だ。
屋外からの出入りの際に気を遣わなければならない季節になった。

映画「パイロマニアック 炎の中の獣」を観た。

日もとっぷりと暮れた民家もまばらな山あいの町。
林の中をうねるように走る道を一台の車が行く。

おや?
こんな時間に誰がやってきたのだろう。
一軒の家の老婆が、ふとドアの外に人の気配を感じた。
人影は何やら液体のようなものを撒いている。

あいつよ、あいつが戻ってきたわ!

老婆は慌てて寝室の夫を起こし、キッチンへ通じるドアを開けた。
すると、そこは既に火の海。
足元おぼつかない老夫婦が、燃えさかる我が家の裏口から命からがら脱出する。
そんなショッキングなシーンから物語は幕を開ける。
・・・ねえ「あいつ」って誰?

時は3週間前に遡る。

ここに、家の敷地内に消防車の設備を有する、地元の消防隊長の家がある。
森林火災に備え、日ごろから自分たちで機材のメンテナンスと訓練を欠かさない。
そして有事の際は駆けつけた隊員らの指揮を取り、一丸となって消火に当たるのだ。

しかしこの隊長もだいぶ老い衰え、近頃は体力に自信がなくなってきた。
一番の悩みは19歳になるひとり息子のことだ。

息子は兵役を終え帰ってきて以来、定職に就いていない。
このところ森で放火が多発しており、親父が出動するときは嬉々として助手を務める息子であったが、肝心の隊員としての資質はいまひとつ。
このまま親父の跡を継ぎ、消防隊長になるのは難しそう。

実は、この息子こそが放火魔そのしとであった。
自閉症気味で、同世代の若者たちになじめない彼は、消防隊の一員として親父と消火活動に参加することに自身の存在意義を見出していたのだ。
そんな動機から始まった彼の火付けであったが、燃えさかる炎を見ていると不思議と心が晴れることに気づいた。
炎を操ることで、無能な自分がさながら神にでもなったかのような感覚に酔いしれることができる。
こうして味を占めた彼の行動は、森林から空き家へと次第にエスカレートしてゆくのだった。

最近、息子の様子がどうもおかしい。

帰宅した彼から煙のにおいがしたり、衣類のポケットからマッチが出てきたりするものだから、さすがに両親も感づき始める。
とはいえ恐ろしくて息子に問うことができない。
そうしている間にも、連続放火は止め処なく続いてゆく。
さあ、一体どうなってしまうのだろう。

物語は、山あいの田舎町を舞台に、放火魔と化してゆく青年の狂気と、苦悩するその両親の姿を描いたサスペンス。

内向的で真面目な青年が社会のストレスによって常軌を逸してゆく様がじわじわと恐ろしい。
この性格で兵役に耐えられたのだろうか。
兵役で何があったのだろうというところまでは触れておらず、若干謎が残る。

どうしてこんなことに。
とんでもないモンスターを抱えてしまった両親の苦しみ、特に背を向けてすすり泣く母の姿が目に焼き付いて離れない。
衝撃的な冒頭に始まり、終始漂う不穏な空気感が観る者を釘付けにする一作。

トロン・ニルセン
ペール・フリッシュ
リヴ・ベルンホフト・オーサ
ナチスが最も恐れた男」のアグネス・キッテルセン
オッドゲイル・チューネ
ゲルディ・シェルデルプ
ペール・トフテ
ヘンリク・ラファエルソン共演。

原題「PYROMANEN」
2016年 ノルウェー制作。