おかめさんのキネマ手帖

映画の予備知識は限りなくゼロに近いのが理想や。 そう思うてるライトユーザーなオバハンがつぶやく ぼちぼちな映画日記やで。

LION/ライオン 25年目のただいま

すっきりしない曇り空の一日。
数日前から、よそ者カラスの一団がやってきて我が物顔で振舞っている。
道端のゴミを荒し、点呼を取っているのかガアガアとやかましい。
このあたりを縄張りにしているカラスや、他の鳥たちがすっかり鳴りを潜めてしまった。

映画「LION/ライオン 25年目のただいま」を観た。

荒野をキラキラと舞う蝶の群れに見とれる、幼い少年の姿から物語は幕を開ける。

時は1986年。
ここはインドのカンドワ。
少年は兄に連れられ走る貨車に乗り込むと、肩から下げた布袋にせっせと積荷の石炭を詰め込む。
こうして盗み出した石炭を、市場でわずかな牛乳と交換するのだ。

シングルマザーの母と妹が待つ粗末な家での暮らしは厳しい。
家計を助けるべく兄はよく出稼ぎに行く。
列車にこっそり紛れ込み、荷運びの仕事がある大きな町まで旅をする。
小っさいけど役に立ちたい少年は、このたび無理を言って兄について来た。

でもね、やっぱりまだ幼いのだ。
仕事を探しに来たというのに眠くてたまらないよ。
やむなく兄は、弟を駅ホームのベンチに寝かせ、ここで待つよう言い含めるとひとり仕事を探しに行った。

やがて、誰もいない夜のホームで目覚める少年。
兄はいないし、急に心細くなってきた。
幼い子供は目を離すとどこへ行くか分からない。
ほらね、思ったとおり。
兄を探し彷徨ううちに疲れ果て、座り込んだ列車の座席でそのまま眠りこけてしまったよ。

やがて回送列車は少年を乗せたまま動き出す。
さあ、大変。
助けを求める少年の叫びも空しく、列車は何日も走り続け、カンドワから東へ1600キロも離れた西ベンガルカルカッタへと到着するのだった。

カルカッタ駅のホームはすさまじい人でごった返している。
梅田の比ではないよ。

ここはどこ?
兄ちゃーーん!
母ちゃーーん!

いくら叫べどもその姿があるはずも無く。
ベンガル語が分からず、幼すぎて自分の住所や名前すらもあやふやな少年。
ああ、とんでもない迷子になっちまった。

ストリートチルドレンがそこらじゅうにいるものだから、子供のひとり歩きを気に留める大人もいない。
しかも、子供を保護するどころか捕らえてさらってゆく人身売買組織の大人がうようよしているではないか。
なんちゅうデンジャラスな所や。

こうして少年は二ヶ月のサバイバル生活の後、孤児院へ収容される。
ところがここも子供にとって安全地帯とは言いがたい。
収容人数を越えた劣悪な環境と職員による性的虐待が恒常化しているではないか。

運良く少年は、早々にこの地獄を脱出することができた。
オーストラリアはタスマニアに住む夫婦と養子縁組が決まったのだ。
少年が見たこともない豊かな暮らし。
愛情あふれる優しい養父母のもとで、彼はようやく心の平安を得ることができるのだった。

それから20年。
立派に成長しメルボルンの大学で学ぶ彼は、インド出身の学友宅でふとあるモノを目にする。
雷に打たれたような衝撃に襲われ、遠い記憶が蘇る。
それは、兄と訪れた市場で彼が欲しがった揚げ菓子だった。

自分の故郷はどこなのだろう。
目印になるものといったら駅の給水タンクくらいしか思い出せないよ。

そんならグーグルアースで探してみればいんじゃね?

学友からの思わぬ提案であったが、何しろインドは広大だ。
それはカルカッタから2~3日かかる駅をしらみつぶしに当たるという、気の遠くなるような作業を意味していた。
はてさて、彼の故郷は見つかるのだろうか。

物語は、オーストラリアへ養子として引き取られた少年が、長い時を経てインドの故郷を探し出す奇跡のような実話を描いたヒューマンドラマ。

記憶の糸を辿りながら彷徨う主人公の姿を、現在と過去とをシンクロさせた見事な心理描写で見せる。

毎年インドで行方不明になる子供は8万人以上だという。
少年の弟として養子に迎えられた子が抱える心の病も、おそらく人身売買や性的虐待に起因するものだろうと推測できる。
都市が急速に発展してゆく一方で、人口があまりに多く弱者を救済する環境が整っていないインド社会の闇を感じた。

親子の血縁にこだわる人が多い中、あえて我が子を産まず、不運な子を助けるという人生を選んだ少年の養父母。
困難を承知で複雑な事情を抱え心に傷を負った子供たちに寄り添う、その姿に心打たれた。
目頭熱くなる一作。

サニー・パワール
アビシェーク・バラト
プリヤンカ・ボース
クーシ・ソランキ
タニシュタ・チャテルジー
「めぐり逢わせのお弁当」のナワーズッディーン・シッディーキー
ディープティ・ナヴァル
「ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ」のニコール・キッドマン
「オレンジと太陽」のデビッド・ウェナム
ケシャフ・ジャダブ
マリーゴールド・ホテルで会いましょう」のデーヴ・パテール
「キャロル」のルーニー・マーラ
ディヴィアン・ラドワ共演。

原題「LION」
2016年 オーストラリア制作。